
現代家族の特徴のもうひとつは“個人化”である。個人は家族成員として共同共生しているが、自分だけの生活領域を求め実現させていく傾向のことである。いま男女とも高学歴化し、既未婚を問わず女性の就労が一般化して、相応の可処分所得、知的関心、学習意欲をもち、職業以外にも趣味や社会活動をする人がふえている。家族生活以外に自分がやりたいことがあり、社会的にもこうした個の意向を尊重するようになってきた。かつての妻・母たちは家族全体のためにほとんどすべてのエネルギーを使っていたし、夫・父たちもほぼそうであったろう。個人化など求めるゆとりはなく、また個人より家族全体のことを優先すべきという規範に拘束されていた。
家族の変化を観察すると家族とは何かを問い直す必要性を感じる。社会にとって、個人にとって家族とは何か。社会にとって家族はもっとも基礎的な社会構成の要素であり、不可欠のものである。家族は次世代を生み出し、労働力を供給し、子を社会化し、扶養・介護の役を負うきわめて大きい機能を果たしている。しかし、個人は社会のために結婚し家族を作っていくとは決して考えない。いま個人は幸福を求めて家族を作る。家族愛に溢れ互いの感情を融合させ、子を育て夫婦が生涯連れ添うという家族イメージはそれ自体望ましいものである。だが結婚をすれば予定調和的にこのイメージが実現するはずがない。家族という集団の維持存続と家族成員・個人の欲求の充足とを同時に矛盾なく達成することは難しい。個人の主体性、自己実現に価値を置く個人主義(集団主義に対置する意味で)的な動向が強まる中でそれは難しい。
個人は人として他者との強い情緒的きずなを求め、それを必要としている。自分が親
きょうだいとの間に経験したように今度は自分の作る家族の中で夫婦・親子間の情緒的きずなを求めるのが自然である。自由と個人の生活領域を保ちたい人びとにとって時に自由と家族的拘束の間で揺れながら、困難さを承知して豊かな関係の創出と継続を目ざして努力する必要がある。特に夫婦間では自分の自由や自分の生活領域の確保したい欲求は、性別にかかわりなく配偶者もそれをもっていることを理解し認めあって共同生活を維持する努力が必要である。そして積極的に論理だけでなく感情を込めたコミュニケーションの積み重なりが大切である。
最後に家族の暗い面として、家庭内暴力(特に夫から妻へのDV)、児童虐待、老人虐待の問題を指摘しておきたい。家族の密室性によりなかなか発見できず問題解決への援助ができにくい。もっとも親しいはずの家族員が加害者である深刻さ。このほかにも個々の家族の力では克服できない課題は多く、また、力量不足の家族は多い。今後はいっそう家族福祉的な援助サービスの進展が望まれる。
◆プロフィール◆
田中 滋子(たなか・しげこ)
【1936年生】
1964年 早稲田大学大学院文学研究科社会学修士課程修了。1969年 立正女子大学講師。1973年 文教大学助教授(校名変更)。1977年 文教大学教授。現在に至る。
専攻: 家族社会学、地域社会学。
著書:『家と親族組織』(早稲田大学出版部)、『現代日本の共同体・弟2巻・家、家族』(学陽書房)、他。
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