現代家族を考える
田中 滋子(文教大学教授)
いま少子高齢化の進行する中で、家族の在り方が問われている。国は家族政策を立てて対応しているものの、晩婚化、非婚化、少子化の動きは止まらない。結婚や出産を阻む要因として既得の生活水準の低下を嫌ったり、生活費の増大に不安をもったりと、経済的要因が影響していよう。その奥には人びと特に若者が個人生活を重視し、自由に幸福を追求しようとし、結婚して家族を作ることは人生の選択肢のひとつと考えるようになったことがあるように思われる。そして人びとを結婚や出産に誘引してきた社会的圧力−結婚をしてこそ一人前、結婚をしたら子を持つのが当然、アトトリを残すべしなど−は明らかに弱まっている。結婚し親になることが自分の幸福につながると思えばこれを選択するが、そう思わないならば止めておくということになる。
ふり返ってみると、戦後、家制度が廃止され家意識から解放されて、特に女性は次第に自由と平等を家族生活の中で得ていった。高度成長期に入ると、若者による都市への大きな人口移動が続き、やがて都市では沢山の新しいカップルが誕生した。多くの場合、恋愛から結婚へ、住居は木造アパートや社宅であって、子の誕生・成長に合わせて公営団地住宅へ、さらに郊外の一戸建住宅へと移動していった。世帯構成は夫婦と未婚の子のいわゆる核家族世帯が主流であった。地方では子が全部他出してしまい親夫婦だけの世帯がふえていった。戦後のベビーブーム世代の間では欧米の近代家族(夫婦家族制の家族)のイデオロギーをもって既婚子が親もとから独立し夫婦中心の家族を形成する傾向が強まった。恋愛を経て配偶者を自己責任で選び合い、結婚、子育て、子の独立、やがて夫婦二人になり、ついには配偶者と死別して一人暮らしとなる。この家族発達の各段階に配されている課題を達成し、めでたく安定した老後生活を実現できた家族(夫婦)は成功した家族と考えられてきた。これが標準的な家族であり、当時の家族モデルとして受け止められた。やがて日本の家族はこの家族モデルに収斂することが期待された。
この家族モデルでは結婚をすれば子が生まれ、夫婦は離婚しないで添いとげることが前提であり、また夫が収入をあげ妻は家事・育児を担当する性別分業が暗黙の了解となっていた。この家族モデルは急速に産業化する社会に適合したが、80年代以降次第に現実から乖離し、そこに収斂するはずのモデルとは考えにくくなった。全国の世帯構成をみると75年には夫婦と未婚の子の世帯は42.7%あったものが00年には32.8%に低下し、夫婦のみの世帯が75年に11.8%、00年にはこれが20.7%へと伸び、単独世帯は同じく18.2%から24.1%へと伸びている。こうした変化の理由は単純ではないが、夫婦と未婚の子の世帯がもはや標準的な世帯とはいえなくなっている。
女性のライフコースを初婚同士安定型、再婚型、離別非再婚型、未婚型の4つに大別した高橋重郷氏によると(図説高齢者白書01年版)、65年に初婚同士安定型が82.6%、再婚型が4.4%、離別非再婚型が5.0%、未婚型が8.0%であった。ここでは初婚同士安定型が他を圧倒しており、先述の家族モデルの妥当性を裏づけている。しかし30年後の95年には初婚同士安定型は64.7%にとどまり、再婚型13.2%、離別非再婚型7.4%、未婚型14.8%とこの3タイプはいずれも上昇し、女性のライフコースを通して家族の多様化がすすんでいることがうかがえる。
現代家族の特徴のひとつを表す言葉に“多様化”がある。文字どおり、世帯構成、家族イデオロギー、家族関係、役割分担など家族生活が多様化していることである。たとえば既婚子と親との同居別居では、長男との同居もあれば、子のうちの誰かとの同居、妻方の親との同居などいろいろであり、一人になった老親を子の誰かが引き取り同居する場合もある。また、30代、40代の未婚の子が親と同居しているいわゆるパラサイトシングルが増加している。離婚による片親家族やまだ日本では欧米より少ないが、子連れでの再婚で形成される継家族も増加している。家族の多様化は、個人やその近親者がさまざまな事情をもちつつ、その家族親族関係の在り方を自分で選択した結果ともいえる。