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イスラームの復興主義運動
 以上のように、中東地域はヨーロッパ列強の帝国主義と植民地主義によって、大きな損害を受けたのである。このような状況を、イスラームの人々はどのように受け止めたのであろうか。
 第2次大戦後、パキスタンの国連大使となり、「イスラームの大使」として活躍したムハンマド・アサドは、「ムスリムがイスラームを忘れ、イスラームに生きようとしない彼らの精神的怠惰、彼らの精神的硬化、彼らの文化的衰退からムスリムの失墜と停滞が生じ、結果的に西洋列強の支配に服さなければならなくなったのだ」と言っている。
 中東地域の疲弊はヨーロッパ列強に大きな責任があるとしながらも、「イスラームの魂を失った」ムスリム自身にも責任があると、彼はムスリムに厳しい自己批判を迫るのである。  こうしたアサドの考え方は、イスラームの有識者に共通する歴史認識だと考えてよい。いわゆる「イスラーム原理主義」と称せられるものの本意は「イスラームに目覚めよ」「本来のイスラームに回帰せよ」という理念を指しているのである。
 こうした復興主義は18世紀に始まる。特にアラビア半島ではワッハーブという復興主義者が現れ、「シャリーア(イスラーム法)に基づいた生活に戻り、純正なイスラームに返ることこそが、新しい社会づくりである」と説き、アラビア半島全体に広がっていく運動となる。一方、当時のアラビア半島では、現サウジアラビアの王家であるサウド家が勢力を拡大していたが、サウド家とワッハーブ復興主義運動は手を結び、1932年サウジアラビアが誕生するにいたる。
 その建国の精神は、純正なイスラームに返り、シャリーアに基づいた純正な宗教国家の建設であったが、現在のサウジアラビアの状況はどうか。湾岸戦争終結後もイスラームの聖地に米軍は駐留したままであり、しかもサウジ政府は駐留米軍の兵士約3万人に対し膨大な国家予算が米軍駐留費として支出され続けている(1日、1人の兵士に1500ドルとも言われている)。また、支配者層の堕落した生活がしばしば問題視され、建国の精神に反するかのような反イスラーム的状況が続いてる。
 こうした事象は、国民の目にどのように映っているのであろうか。それは、生活に苦しむ国民に反体制的意識と反米的意識をかきたてるものでしかない。今回のテロの首謀者と目されるウサマ・ビンラーディンはサウジ出身であることも、これとは全く無関係とはいえない。

イスラームの抵抗運動
 私たちが米国同時多発テロ事件に端を発する一連の事態を見ていく上で大事な点は、一般に「原理主義」と言われている「イスラーム復興主義運動」とテロ活動は根本的に違うということであり、同一視してはならないということである。それでは、世界各地で起きているムスリムの抵抗運動と今回のテロ事件の関係をどのように見ていけばいいのであろうか。
 イスラームの指導者たちは、テロリズムと自分たちの自衛の行為を区別しなければならないと主張する。
 テロリズムの破壊活動は許されないが、パレスチナやコソボ、ボスニア・ヘルツェゴビナなどで行われているムスリムヘの迫害や虐殺に対する敵対行為は自衛行為として許されると強調するのである。
 シャリーアに基づいて判断すれば、テロリズムは認められない。クルアーンには「一人の無実な人間を殺す者は全人類を殺すのと同じである。一人の人間を救うことは、全人類を救うのと同じである」という聖句がある。
 イスラームでは、テロは絶対に許されない行為である。イスラームの教えに忠実であればあるほど、無実な者を殺すことは神の道に反するもので、許され難い大罪である。だが一方で、自衛権の発動は認められている。確かに、帝国主義的な拡大戦争は認められない。
 しかし、ムスリムにとって「母」ともいうべきウンマ(イスラーム共同体)が攻撃を受ければ、ウンマを守るためにムスリムは戦わねばならない。この点は、絶対的平和主義を説く仏教と大きく異なる。
 問題は、テロリズムと自己防衛の戦いを、どこで区別するかであろう。イスラームには、戦争と平和に関する独自の法、「シヤル」と呼ばれるイスラームの国際法がある。シャリーアに基づいて、神が許したもう戦争と神がしてはならないと命ずる戦争が理論化されているのである。戦争で禁止されている行為も明確に決められている。非戦闘員、婦女、未成年者、身体障害者、宗教者、医者などは無実の者であるから殺してはならないと定められている。敵の大量殺戮も許されない行為である。
 今回のテロ発生後、イスラームの指導者から多くのメッセージが出された。そのほとんどが、今回のテロ行為を非難する内容であったが、中にはテロ行為を非難した上で、イスラエルによるパレスチナ人に対する国家テロを糾弾し、そのイスラエルに支援を続ける米国の姿勢に怒りや不信感を募らせているといった趣旨の発言もあった。こうした発言のすべてが、シャリーアに基づいて行われているわけである。