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 海底遺跡に関係して、筆者は沖縄の古代の歴史そのものにも関心を持った。そのなかで、沖縄で見つかった古代文字、象形文字については特に大きな興味を持った。東アジアに漢字とは異質の文字があったということ自体が興味深いことである。漢字の存在が当たり前のなかで、それ以外の文字がすぐ近くにあるし、あったということは非常に面白いことではないだろうか。沖縄の象形文字については図柄や出土状態から判断すると比較的新しく16〜17世紀のもののようだ。驚きなことは、つい最近まで用いられていたということだ。16〜17世紀といえば琉球でも漢字が一般に用いられている。その他に象形文字が用いられていたということは何を意味しているのであろう。そういう意味で、中国の雲南省のある少数民族の間では現在でもトンパ文字といわれる象形文字が使われているという話もある。
 沖縄の象形文字に関連してはイースター島でみつかっているロンゴロンゴと呼ばれる刻文も興味深い。インダス文明のモヘンジョダロでも類似の古代文字が用いられていた。これらはまだ解読されていないが一種の象形文字、表意文字であると考えられる。また、古代エジプトには良くしられているように、民衆文字の他に絵柄のピエログリフ(神聖文字)と呼ばれる文字がある。
 いずれにしても、絵柄の象形文字、表意文字は世界各地でかなり一般的に各地で用いられていたようだ。象形文字はいわば絵文字というべきものであり、実用という観点からするとかなり便利なものではないだろうか。多数の異なる言語を含む社会で用いられたことはもちろん、異なる文化圏の間でも共通語としての可能性は極めて高かったのではないかと容易に予想されるからである。
 最近の古代史に関する出版物などもあわせて、点と点とを線で結ぶようにしてみると、浮かび上がってきたものは、はるかに多様で広範囲に及ぶ古代文化圏の存在である。文化や文明というものは少なくとも直線的に単調関数のように進歩するものではないのではないか。世界の各地で幾度となく栄枯・盛衰を繰り返してきたのではないか。人類の歴史はもっとずっと古いのではないか。こうした文化の地域的、時間的多彩さは、従来一般に持たれてきた歴史観とはずいぶん異なると言わなければならない。現在、我々は思い込みと固定観念を取り払い、改めて古代史の見直しをする段階にきているのではないか。
 与那国島の海底遺跡は世界の古代史の見直しという大変に大きな問題を提起することになった。日本でも東北部の青森の三内丸山縄文遺跡等の発掘がすすみ、以前考えられていたのよりずっと古く、高度な縄文文化圏の存在が明らかになるなどの新しい状況がでている。実際の古代では、予想を越えて、はるかに多彩で高度な生活と文化を送っていたようだ。また、最近の遺伝子(DNA)構造の解明から我々日本人のルーツ特に大陸との係わり合いが明らかになりつつある。こうした新しい知識をもとに日本の古代史と日本人のルーツについて思いをはせることは大変に楽しいことである。21世紀を迎えた現在、将来を展望するにあたり、こうして自分達の足元を見直していくことは大切なことでもある。そういう意味で最近出版された『発掘日本の原像』(天野幸弘、朝日選書)は待望の書といっても良いだろう。

◆プロフィール◆
大内徹(おおうち とおる) 【1948年生】
神戸大学都市安全研究センター助教授
1978年 東京大学理学系大学院修了(理学博士)
1978年 神戸大学理学部助手
1996年 神戸大学都市安全研究センター助教授
専攻地震:地震・防災学