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政治における赦し
飯坂 良明(聖学院大学学長)

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 20世紀は戦争の世紀だと言われるほど、戦争に明け暮れた。前半に二つの世界大戦があったし、世紀の後半は、起きれば核戦争になったであろう第三次世界大戦はなかったとはいえ、国家間・国内を問わず、大小規模の戦争や武力紛争が依然として後を絶たず、この半世紀間に二千以上を数えたという。膨大な人命と資源の損失のみならず、文化文明の破壊や社会の歪みと混乱をもたらし、さらに人間の不安、絶望、恐怖、憎しみ、恨み、反感、敵愾心、復讐心など、人間性を疎外するような心の苦悩と悲惨を増し加えることになった。社会の混乱は精神の混乱と裏腹であり、社会の病理的体制は、心に深い傷、いわゆるトローマ(trauma)を刻み込み、また、価値の混沌と無法、つまりアノミー状態を生み出して、そこから人が立ち直ることを困難にした。表面的な科学技術の発展や社会制度の精緻化、社会統制の拡大は、民主主義の実現に資するとともに、管理社会の進展にも役立つものとなる。豊かな社会は、精神的貧困の社会と重なり、社会の世俗化は、社会の呪術化と宗教化を促進する。豊かな国はますます豊かになるとともに、貧しい国はますます貧しくなる。こうして20世紀は、同一世界のなかの自己矛盾をますます増大させ、恩恵と害悪、豊かさと貧しさ、福祉と悲惨、希望と絶望、楽観と悲観などの同時進行と共棲、いわゆる「シンバイオシス」(symbiosis)を出現させた。20世紀は、まさに矛盾の世紀であった。
 20世紀の戦争は、歴史に類を見ない兵器の増大と多様化をもたらし、兵士と一般市民、戦闘員と非戦闘員の区別をなくした。その結果、戦争の犠牲者はとみに増大し、20世紀の人的損害は、それに先立つ4世紀間の合計をはるかに上回るという数字が出ている。ヨーロッパを中心にして見た統計だが、それによると、1500年代の兵士と市民の死者合計は160万人、1600年代が610万、1700年代が700万、1800年代が1,940万で、全部合算すると3,400万余りとなる。ところが、20世紀に入ってからの最初の90年間の戦争による犠牲者は、1億780万を数える。従って、20世紀全体では、1億1,000万を優に越えるのではないかと推定される。こうして、20世紀の一世紀だけで、それに先立つ5,000年間の戦争による死者を全部合わせたよりも、より多くの人命が戦争で失われたということになる。ちなみに、20世紀前半の二つの世界大戦の死者をみても、6,000万以上が数えられ、第一次大戦では、800万の兵士と100万の民間人という割合だったものが、第二次大戦では、1,700万の兵士と3,500万の民間人というように、比率が逆転している。つまり戦闘員の犠牲に較べて、非戦闘員の犠牲が倍以上になっている。これは人類の歴史において異常な事態と言うほかはない。だから20世紀を「戦争の世紀」として特徴付けるに十分な理由がある。健全な精神の持ち主であれば、こうした「戦争の世紀」に終止符を打ち、これを新しい世紀に持ち越さないことが喫緊の課題であることを誰も疑うものはなかろう。